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最高裁判所第二小法廷 昭和30年(あ)755号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を仙台高等裁判所に差し戻す。

理由

仙台高等検察庁検事長代理検事沢田隆義の上告受理申立理由第一、二点について、

刑法三八条三項但書は、自己の行為が刑罰法令により処罰さるべきことを知らず、これがためその行為の違法であることを意識しなかったにかかわらず、それが故意犯として処罰される場合において、右違法の意識を欠くことにつき斟酌または宥恕すべき事由があるときは、刑の減軽をなし得べきことを認めたものと解するを相当とする。従って自己の行為に適用される具体的な刑罰法令の規定ないし法定刑の寛厳の程度を知らなかったとしても、その行為の違法であることを意識している場合は、故意の成否につき同項本文の規定をまつまでもなく、また前記のような事由による科刑上の寛典を考慮する余地はあり得ないのであるから、同項但書により刑の減軽をなし得べきものでないことはいうまでもない。

しかるに原判決は、被告人等が共謀して昭和二八年二月二一日山形県東田川郡本郷村所在の村有の橋を岩石破壊用ダイナマイト一五本を使用爆発させて損壊した本件事案につき、被告人若生栄七の第一審公判における、ダイナマイトを使ってこんなことをすると罪が重いということを知らなかった旨の供述、被告人工藤流治の原審第三回公判における、ダイナマイトを勝手に使うことが悪いこととは思っていたが、こういう重罪ではなく罰金位ですむものと思っていた旨の供述を引用して、「被告人等のこれらの供述によれば、被告人等は死刑または無期もしくは七年以上の懲役または禁錮に処せらるべき爆発物取締罰則一条を知らなかったものというべきである」と判示し、被告人等の犯行の動機、性格、素行などを参酌して刑法三八条三項但書により刑の減軽をなしているものである。これによれば被告人等は右本件所為が違法であることはこれを意識していたものであり、ただその罰条または法定刑の程度を知らなかったというに過ぎないものであるにかかわらず、一般の量刑事情を挙げて刑法三八条三項但書を適用しているのである。

されば原判決は刑法三八条三項但書の解釈適用を誤ったものであって、右違法は判決に影響を及ぼすこと明かであり、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認めなければならない。

よって刑訴四一一条一号、四一三条本文により原判決を破棄し、本件を原裁判所に差戻すべきものとし、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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